「肉付きの面」の伝説。意地の悪い姑がつけた鬼女のお面が、顔からはずれなくなってしまったという昔話です。福井県の吉崎御坊・願慶寺にはその肉付きの面の実物があるんですよ。
むかし、むかしあるところに
願慶寺に伝わるお話をご紹介します。昔、吉崎寺の村に清という信心深い女が住んでいました。清は夫と子供に先立たれ、姑のおもとというお婆さんと暮らしていました。
嫁の清を憎む、姑おもと
清は毎日熱心に吉崎寺に通って、亡くした家族を弔っていました。しかしおもとはそれが気に入らない。村人からも親しまれ、けなげに生活する清が良い人ぶっているようで、憎くて憎くて仕方なかったのです。
鬼女の面で怖がらせてやろう
清に一泡吹かせるにはどうしたらよいか? おもとは家に伝わる鬼女の面をかぶって嫁を怖がらせてやろうと思いつきました。そして清が吉崎寺に詣でるのを先回りして、面をつけて髪を振り乱して清の前に飛び出しました。
食まば食め、喰わば喰らえ
清は驚いたものの「食(は)まば食め、喰(くら)わば喰らえ金剛の、他力の信はよもや食むまじ」と念仏を唱えながら逃げました。おもとも正体がばれては大変と、家に飛んで帰りました。
面が顔からはずれない!
家に着いて、面をはずそうとするおもと。けれども面は全く顔からはずれません。無理に外そうとすると顔の皮、肉がそげてしまうような痛みが走ります。そこへ嫁の清が帰ってきました。鬼女の面をかぶった姑に驚く清。
仏の力で面が落ちる
おもとが涙ながらに訳を話すと、清は「南無阿陀仏」と心から唱えなさいと勧めました。念仏を唱えると、なんと面はぽろりと顔からはずれました。以後おもとは清とともに熱心に仏を信心するようになったのでした。
私はこのお話は子供の時に手塚治虫の漫画『ザ・クレーター』で読みました。すっごく怖かったなあ。
ご住職のお話を聞きながら見学
これが肉付きの面。別名「嫁威(よめおどし)の面」。うーむ、これが顔にぴったり貼りついたという鬼女の面か……。間近に見るとゾクゾクしますね。肉付きの面のお話は、全国で少しずつバージョンが違ったりするのですが「顔からはずれなくなる」というのはどの伝説にも共通しています。
流暢で面白いご住職のお話
ご住職が肉付き面を前に由来を語ってくれました。ご住職のお話はとても流暢で面白く、一緒に聴いていた中年のおじさん団体が「いやあ、講談師みたいに上手だねえ!」と感心してましたよ。今時、講談師って!
しかし不思議はそれだけではなかった!
でもさらに不思議なことがあるんですよ。実は肉付き面があるのは願慶寺だけじゃないんです! なんと肉付きの面は2つ。しかも願慶寺のすぐ近くに存在するのです。↓の記事をぜひ読んでくださいね。(2007年06月10日訪問)【麻理】

参考文献
地図&情報
吉崎御坊・願慶寺(よしざきごぼう・がんけいじ)
住所 :福井県あわら市吉崎1-302
電話 :0776-75-1956
時間 :07:00~19:00
定休日:年中無休
拝観料:大人500円