奈良県の飛鳥奇石群の一つ二面石。石の両側に違った顔が彫られている二面石。その目的はいったい何? 手塚治虫作『三つ目がとおる』では、とてもユニークな解釈をしていますよ。
聖徳太子ゆかりのお寺
橘寺(たちばなでら)は奈良明日香村にある天台宗のお寺です。この寺院の近くで聖徳太子が誕生したという伝説があり、ご本尊が聖徳太子坐像だったり、聖徳太子建立七大寺の1つだったりと、太子ゆかりのお寺として有名です。
不老不死の木の実・橘
お寺の名前の名前の橘(たちばな)とは不老不死の力を持った木のことで、『古事記』『日本書紀』には「時じくの香の木の実(ときじくのかくのこのみ)」、「非時香果(ときじくのかぐのこのみ)」と書かれています。「時に非(あら)ず」だから、時間が過ぎることがないという意味ですね。
時じくの香の木の実の実を植えたお寺
垂仁天皇(紀元前69年〜79年)の命令で、時じくの香の木の実=橘を探して持ち帰った田道間守。残念ながら田道間守が帰国した時には垂仁天皇は崩御されていて、橘の実を口にすることはありませんでした。その実を植えたのがここ橘寺です。橘は柑橘系の果物のことですから、ミカンをたくさん食べたら不老不死になれるのかしら。
『三つ目がとおる』の『酒船石奇談』
閑話休題。橘寺の二面石を見ようと思ったのは、『三つ目がとおる』(手塚治虫)の『酒船石奇談』という短編に、酒船石とともに重要なモチーフとして登場していたからです。主人公はご存知、三つ目族最後の生き残り・写楽保介(しゃらく ほうすけ)。
二面石の中に書かれた麻薬製造法
前々回の記事で酒船石は奴隷を思うままに操る麻薬の製造機として使われていたというストーリーをご紹介しました。その薬の製造方法はなんと二面石(にめんせき)の中に書かれていたのです。手塚治虫の想像力はすごいなあ。
梵字が彫られた二面石
真っ二つに割れた二面石の内側には、梵字でびっしりと文字が彫られていました。3つ目の目があらわになった写楽君は超天才少年に変貌するので、その文字を読むことができるのです。
どうやって分かったの?
そこに書かれているとなぜ分かったのか、二面石が割れる仕組みはどうなっているのか──。マンガの中には詳細には書かれていませんが、きっと天才写楽君なら二面石の謎を解くぐらいは簡単なことなんでしょうね。
二面石の写真をどうぞ
いい加減にその実物を見せろという声が聞こえてまいりました。引っ張ってごめんなさい。ジャン。これがその二面石です。高さは1.24メートル。もともと橘寺にあったものではなく、吉備津姫王墓に置かれている猿石と同じ場所から掘り出されたという説もあります。
善人の顔と悪人の顔
正面向かって右側が無垢な善人の顔(写真右)、左側が悪人の顔(写真左)と言われています。または男と女の顔、微笑んでいる顔と首をかしげて不思議に思っている顔という説も。文献に二面石のことが全く書かれていないので何を表した像なのかは分かっていません。単に人間には善と悪の両方の面があるという表現なのかもしれませんね。(2013年02月03日訪問)【麻理】
引用
著作権法のマンガ引用に基づく条件は以下のとおりです。
『三つ目がとおる』手塚治虫 講談社漫画文庫
TEZUKA PRODUCTION 1998
『酒船石奇談』 99ページ、113ページ、114ページ
参考文献
地図&情報
橘寺(たちばなでら)・二面石(にめんせき)
住所 :高市郡明日香村大字橘532
電話 :0744-54-2026
時間 :09:00〜17:00
休業日:年中無休
駐車場:無料(20台)
入場料:大人350円