奈良県の飛鳥奇石群シリーズ、第8弾は猿石です。明日香村の吉備姫皇女王のお墓の中にある4体の奇妙な石。サルに似ているから猿石と呼ばれていますが、サル……に見えるかな?
吉備姫皇女王の墓
吉備姫皇女王(きびひめのおおきみ・きびひめのみこ)は欽明天皇の孫にあたり、斉明(皇極)・孝徳天皇の母、天智・天武天皇の祖母にあたります。斉明天皇はもうこのシリーズではおなじみですね。
『日本書紀』には、「檀弓岡(まゆみのおか)に葬る」と書かれていますが、実際この場所がその檀弓岡なのかはどうかは不明。でも『延喜式』などの資料も照らしあわせて、おそらくここではないかと推測されています。
欽明天皇陵から掘り出される
猿石(さるいし)は江戸時代にすぐこの近くにある欽明天皇陵(きんめいてんのうりょう)の南の田から掘り出されました。これは欽明天皇陵の写真です。6世紀後半の築造で、全長138メートルの前方後円墳です。実際には後ろ側の円の部分が大きく削られているので、おそらく当時はもっと大きかったのではないかと考えられています。
欽明天皇の時代
こちらも欽明天皇陵の写真。欽明天皇のころには百済から仏教が正式に伝わり、後の飛鳥文化の幕開けとなる時代でした。この後廃仏派(神道派)の物部氏と、崇仏派(仏教派)の蘇我氏の対立が起こり、物部守屋が蘇我馬子に敗れる丁未の乱へとつながるのでしたね。
柵の向こう側で近づけない
話を猿石に戻しましょう。猿石が掘り出されてしばらくは欽明天皇陵に置かれていましたが、明治5年になって吉備姫皇女王の墓、吉備姫王墓に移されました。現在は石の柵の向こう側に安置されているので正面からしか見えません。柵の間から覗いてみましょう。
女と山王権化(さんのうごんげん)
4体ある猿石を左から順番にご紹介します。まずは女と山王権化(さんのうごんげん)。これらの愛称は外見から後になってつけられたもので、実際に女や山王権化として作られたわけではありません。
女には見えないけど……
女は、これを女と名付けた人の目を疑うようなルックス。どうみても女に見えません。長細い顔は爬虫類を思わせ、ワニやトカゲみたいな印象。女だと思われたのは、下腹部に女性性器が彫刻されているからでしょうね。この像の背面には顔が彫られています。橘寺の二面石のようですね。

シャム双生児のような山王権化
山王権化にも後ろに顔があって、まるでシャム双生児のようです。山王権化はご覧のとおり男性器を露出していますね。ちなみに山王権化とは神仏習合の神であり、天台宗の守り神です。神社の名前にもありますね。神の使い手としてサルを崇拝しているので、そのように呼んでいるのでしょうか。
僧(法師)と男
右側の僧(法師)と男と呼ばれる石。この僧の石像には背面に顔がありませんが、後ろ側に肋骨のような彫刻がほどこされています。
揉み手をしている商人?
男の石は帽子を被っていて、揉み手をしている商人のようにニンマリしています。なぜこれらの石が作られたのか? 例によってその理由は全くわかっていないのですが、有力視されている仮説があります。
渡来人を表したものか?
それは渡来人の像であるという説です。この当時、飛鳥の人口の8割ほどが中国や朝鮮半島から移住した渡来人であったと言われています。仏教、鉄器、機織り、土木など当時最先端の学問や技術の伝道者、また亡命者として日本に渡ってきた人々です。猿石は彼らが祖国を懐かしんで作ったものかもしれませんね。(2013年02月03日訪問)【麻理】
参考文献
地図&情報
猿石(さるいし)吉備姫王墓(きびひめのみこのはか)
住所 :奈良県明日香村平田
電話 :0744-54-2362(飛鳥京観光協会)
時間 :見学自由
休業日:年中無休
入場料:無料
駐車場:なし