滋賀県大津市の等正寺の寺宝は、なんと生首のミイラ! いったいなぜお寺に? 地元で源兵衛(げんべえ)さんの首と呼ばれている生首を拝観し、お寺の方にその経緯をお聞きしました。
境内に洋風のお菓子屋さん
等正寺に到着して本堂前でキョロキョロしていると、境内の横にお菓子屋さんがあるのに気づきました。お寺の中にお店があるなんて珍しいですね。お話をうかがってみることにしました。
キャラメルシフォンケーキが有名な佐知’s Pocket
お店の名前は佐知’s Pocket。実は地元では等正寺としてというよりは、こちらのお店の方が有名みたいです。中でもキャラメルと生クリームたっぷりのキャラメルシフォンケーキは絶品だそうで。お寺だからなんとなく和菓子かと思いきや洋風とは。
生首のいきさつをおききしました
ご住職にお話をうかがいたいのですがとお店の方に聞くと、お留守のご住職のかわりにお内儀が解説をしてくださることになりました。お店で忙しそうでしたのに恐縮しきり。ありがたいです。
漁師の源右衛門の息子・源兵衛
本堂のガラスケースにあるのが源兵衛さんの首と言われる生首のミイラです。源兵衛さんとは堅田の漁師の源右衛門という人の息子です。中央の木彫の像が源右衛門さん。
親鸞の木像を三井寺に預けた蓮如
時は1465(寛正6)年。京都の本願寺が焼き討ちされた時に、室町時代の浄土真宗の僧・蓮如(れんにょ)が、宗祖親鸞(しんらん)の木像を三井寺に預けて諸国を旅しました。その後山城の山科に本願寺を建立する時に「あの時預けた木像を返していただきたい」と三井寺を再び訪ねました。
人間の生首二つと引き換えに木像を返してやろう
ところが三井寺の僧侶たちは、何度足を運んでも親鸞の像を返してくれません。挙句の果てには「人間の生首を二つ持ってくれば引き換えに返してやろう」と言い出す始末。ひ、ひどい。鉄鼠の伝説もそうだけど、昔の三井寺は困ったお坊さん多いなあ(※今の三井寺のお坊さんは違います)。
息子の首と自分の首を三井寺の僧に差し出す
腹を立てたのは信心深い堅田の漁師・源右衛門です。源右衛門は息子の源兵衛によく言って聞かせると、息子はお父さんよく分かりましたと頷きました。源右衛門は息子・源兵衛の首を切り落としました。
そして三井寺の門前に足を運ぶと「これは息子の首だ! そしてわしの首も切れば、約束の生首二つだ!」と叫びました。かくして三井寺の僧たちは像を蓮如に返して一件落着となりましたとさ。
現代の倫理観からすると驚きの行動だけど……
えええええ! ちょ、息子、物分かり良すぎ! 現代の倫理観からすると親が子供の首をはねるとか、無理難題に生首持って来いとかもう全くもって理解不能なのですが、15世紀の宗教観としては美談なんですね。確かに大義のために命を差し出すというのは日本人的な美学とも言えますがちょっと唖然。
厨子の中の源兵衛さんの首
源兵衛さんの首は本堂の厨子(ずし)の中におさめられていました。真っ黒な骨に、白い歯が笑っているかのように光っています。私が一番気になったのは、蓮如上人はいったいどう思ったのかということでした。いやはや立派な心がけ!と感心したのか、それともなにもそこまで……と心を傷めたのでしょうか。(2016年01月09日訪問)【麻理】
参考文献
地図&情報
等正寺(とうしょうじ)
住所 :滋賀県大津市小関町7-24
電話 :077-522-0651
関連URL:佐知’s Pocket【滋賀県大津市・料理教室】