1964年(昭和37)のとあるお宅にお邪魔しました。ここは千葉県松戸市立博物館内にある常盤平団地の再現コーナー。そのあまりに細かい設定とリアルすぎる再現度にびっくり!
感動体験博物館・松戸市立博物館
松戸市立博物館は1993年、松戸市政50周年を記念して建設された市営博物館です。キャッチフレーズは「感動体験博物館」。一見してごく普通の建物ですよね。でもここにはその名の通り、驚きの感動体験ができる博物館なのですよ。
松戸市の歴史や自然を学べるコーナー
受付で入館料を払って、階段を上がった二階部分が博物館です。縄文時代からの松戸市の歴史や自然、中世近世コーナーは美しくまとめられているものの、これもよくある市立博物館の光景ですよね。さあどんどん奥に進みましょう。
巨大なコンクリートの塊が!
巨大なコンクリートの塊がみっちり詰まった空間が現れました。これが松戸市立博物館の一押し展示、昭和30年代の常盤平団地(ときわだいらだんち)の実物大再現コーナーです!
ベランダから団地の一室を見学
階段を上ると、団地内の一室のベランダに通じています。ここから中に入って室内を見学できるというわけ。ベランダから侵入なんてなんだか泥棒みたいですが気にせずにどうぞ。物干し竿ハンガーに靴下がぶら下がっていますがこれも展示品の一つです。
50年前の団地にタイムスリップ
中に入れば50年前の団地にタイムスリップ! 土足のままベランダから上がるのが申し訳なく思ってしまうほどのリアルさ。私は昭和37年には生まれていないのですが、すごく懐かしい感じがします。たぶん団地の間取りというものは長らく変わっていなかったからでしょうね。
昭和30年代の意識高い系インテリサラリーマンのお宅
白黒テレビには当時の番組が流れています。壁には昔流行った東郷青児の絵、レコードはジャズのグレン・ミラー。国民百科事典が本棚に並んでいますよ。なんかすごく意識高い!
それもそのはず。昭和30年代の団地族は共稼ぎや年齢の割には所得水準が高い、一流の大企業や官庁に勤めるインテリサラリーマンが多かったからです。
あまりにも細かすぎる住人設定
(※松戸市立博物館パンフレットの写真より)
この2DKの住人を紹介します。昭和35年(1960年)4月に結婚し、そのまま常盤平団地に入居した兼二郎(夫・29才)、陽子(妻・27才)の2人には、翌年4月に真理子(長女・1才)が誕生しました。
兼二郎は地方都市の商家の次男として生まれ、地元の高校から東京にある大学へ進学、現在は品川にある家電メーカーに勤務しています。趣味は映画と音楽鑑賞、特にフランス映画とモダンジャズを好んでいます。
陽子は東京の勤め人の家庭の末娘として生まれ、都内の高校を卒業して兼二郎と同じ家電メーカーに勤めていました。社内のサークル活動で知り合った2人は昭和34年の秋に婚約し、翌年の春に予定した結婚後の新居を探し始めていました。
当時話題となっていた公団住宅の入居募集を新聞で知り、陽子の母の実家が松戸だったこともあって、池袋の丸物デパートに設けられた公団住宅の入居受け付けで常盤平団地の2DKを申し込み、幸運にも入居の資格を得ました。
この驚きの設定資料をご覧ください。こ、細かい!!! この夫婦の出会いのくだりは必要なの?
50年前の団地の台所
50年前のキッチン、いや台所です。でも今もこのような台所のお宅にお住まいの方もいらっしゃるのではないでしょうか。常盤平団地は昭和37年当時最先端の住宅で、応募者は家賃5500円の5.5倍以上の収入がなければ申し込みできなかったそうです。兼二郎さん、29歳妻子持ち。若いのにやるなあ!
和式が一般的だった時代の洋式便器
こちらはトイレ。洋式便器なことに驚きました。調べてみると公団住宅の普及によって洋式便器が普及し、1977年になってようやく和式と洋式が逆転したそうです(※)。2013年度のTOTOの出荷数は洋式が99%、和式が1%なんですって。わお、トイレも最先端。
お風呂はまだ木製です
でもお風呂は木製ですよ。木のお風呂だなんて現在では逆に風流で贅沢かも。実はこの洗面器の中に入ってる石鹸は、「ワ、ワ、ワ〜♪ 輪が三つ〜♪」というCMが流行したミツワ石鹸です。このディテールがすごい。
ミシン台や鏡台のある寝室
こちらは畳敷きの寝室。ミシン台や鏡台のあるお宅も最近は少なくなりましたよね。長女の真理子ちゃんはまだ1歳だからベビーベッドが置かれています。でもここにお布団を敷いたらもうギッチギチですよ。狭いながらも楽しい我が家。
強烈なデジャブを感じる玄関
こちらは団地の玄関。本来はここから入るべきだったのかしら……? それにしてもこの強烈なデジャブ感はなんなんでしょうか。なんか遠い昔にここに来たことがあるような気がしてなりません。
プロジェクトXにも取り上げられたこだわりの展示
開館した当初は「団地などなぜ展示するのか」といった批判的な声もあったといいます。でもあまりに素晴らしすぎる再現度に、NHKの「プロジェクトX〜挑戦者たち〜」をはじめ数々のメディアに取材されたそうですよ。なんと小学館の『21世紀こども百科 歴史館』という百科事典にも掲載されています。
【動画】動画で見る常盤平団地
ベランダから玄関へ向かうまでを動画におさめましたので、ぜひご覧ください。「感動体験博物館」のキャッチフレーズは伊達じゃありませんよ。兼二郎さん、陽子さんおじゃましまーす。
ぜひ60代以上の方に訪れていただきたいスポット
学芸員の皆さん、博物館スタッフの皆さんの執念まで感じる迫力の再現コーナー。そのこだわりっぷりに頭が下がる思いです。ここはぜひ昭和30年代をはっきり記憶している60代以上の方に訪れていただきたいスポットです。(2016年10月08日訪問)【麻理】
参考文献
地図&情報
松戸市立博物館(まつどしりつはくぶつかん)常盤平団地(ときわだいらだんち)
住所 :千葉県松戸市千駄堀671
電話 :047-384-8181
休業日:月曜・毎月第4金曜・平成28年6月20日〜6月27日・年末年始
時間 :09:30~17:00
入場料:大人310円
駐車場:なし
関連URL:松戸市立博物館|松戸市