ドラゴンの骨!? 埼玉県秩父市の法雲寺には龍の骨と言い伝えられている化石があります。他にも天狗の爪や楊貴妃の鏡など不思議な遺物と伝承が残されています。正体はいったい何?
山深い秩父の古刹・法雲寺
山深い秩父の森の中にある法雲寺。秩父三十四観音のうちの第三十番札所です。苔むした岩の石段に、丁寧に刈り込まれた樹木、鯉の泳ぐ池。訪れたのは暑い7月でしたがここだけ清涼な風が吹いているような心地よさです。
朱色の観音堂に件の遺物が
さて件の龍の骨と天狗の爪、楊貴妃の鏡は石段を上がった観音堂に収められています。観音堂は全体が緋色に塗られていて、背景の緑とのコントラストがとても絵になります。
龍の骨や天狗の爪は外側から眺めることができる
ガラス窓の向こうに、龍の骨、天狗の爪、楊貴妃の鏡があります。以前は本堂のケースに収められていてご住職に見せていただかなければならなかったのですが、今は外側から自由に見ることができます。
法雲寺の不思議1:龍の骨
龍の骨は20センチぐらい。尖った牙のような歯が全体の三分の二ほど並んでいます。小型のワニかサメのような印象。でもこれが何であるのかはっきりしていません。
昔埼玉は海の底だった
でもヒントはあります。3億年前、埼玉だけでなく日本は海の底にありました。秩父の武甲山は石灰岩の採掘で知られていますが、その石灰岩は当時のイガイという貝の死骸が積もってできたと言われます。そして100万年前は地面が隆起した部分が入江となりました。秩父の川からはクジラや魚、貝の化石が見つかっています。
法雲寺の不思議2:天狗の爪
4センチほどの大きさの天狗の爪。いかにも天狗の手にふさわしい禍々しい外見ですが、実は鑑定の結果カルカロドン(400〜2500万年前)というサメの歯であることが分かっています。龍の骨もおそらく当時の海洋生物の化石なのでしょう。でも昔の人は秩父が海の底にあったなんて知りませんから、天狗や龍の骨だと思ったのでしょうね。
法雲寺の不思議3:楊貴妃の鏡
以上は科学的に説明がつくものですが、この寺宝である楊貴妃の鏡は歴史的な謎が多い珍品です。大きさ10センチほどの銅鏡が波型の彫刻の上に乗っています。『秩父観音霊験記』には、この鏡にまつわるエピソードが書かれています。
秩父霊験記に書かれた法雲寺の楊貴妃伝説
愛知県の熱田神宮の神官のもとに美女が鏡を持って現れ「この鏡を武蔵の国秩父深谷に奉納せよ。如意輪観音の霊言があるであろう」と告げて鏡を託しました。その美女こそ、8世紀唐の時代に玄宗皇帝の妃となり安禄山の乱で亡くなった楊貴妃でした。神官は鏡を深谷の地の一人の翁に託し、その地に法雲寺が建立されました。
本尊の如意輪観音は楊貴妃観音と言われる
確かに法雲寺の本尊の如意輪観音は、別名楊貴妃観音とも言われています。この如意輪観音は楊貴妃の冥福を祈るために玄宗皇帝自らが彫刻し、不空三蔵が開眼したものをここに招来安置したものです。でもちょっと時代が合わないような……。
なぜ異国の地日本に、そんなに時間が経ってから?
法雲寺の創建は1234年。寺の縁起によると鎌倉建長寺の道隠(どういん)禅師が如意輪観音を奉納したのが1319年。でも楊貴妃が亡くなったのは756年です。なぜ遠い異国の地に、そんなに時間が経ってから?
『観音霊験記』の翁は実は龍だった!?
そこで出てくるのが『観音霊験記』の鏡を託された翁です。その翁は、法雲寺を訪れた道隠禅師に、神官から受け取った鏡をわたして言いました。「私は実は悪龍でした。しかし観音様のご加護によって善龍になり生まれ変わる時がきました」そして飛び去った龍が残したのが、あの龍の骨だというのです。うーむ、はたして真相はいかに……?(2016年07月16日訪問)【麻理】
追記:楊貴妃について
楊貴妃の不思議な伝説として、山口県にある楊貴妃の墓もぜひご覧ください。なんで遠く離れた日本にこんなに楊貴妃伝説があるのかなあ。
参考文献
地図&情報
瑞龍山 法雲寺(ずいりゅうさん ほううんじ)
住所 :埼玉県秩父市荒川白久432
電話 :0494-54-0108
時間 :08:00~17:00(冬季は~16:30のこともある)
休業日:境内自由
拝観料:無料
駐車場:無料