長野県茅野市の高過庵(たかすぎあん)は、アメリカの雑誌『タイム』で「世界で最も危険な建築トップ10」にランクインした珍建築。木の上に設置された小さな茶室はまるでおとぎ話に出てくる妖精の家のよう。
建築家・藤森照信氏の珍建築
奥に見えるのが高過庵で、手前に見えるのがワイヤーで宙吊りになった空飛ぶ泥舟。これらの建築物は東大名誉教授で建築家の藤森照信(ふじもりてるのぶ)氏が設計したものです。藤森氏は画家の赤瀬川原平氏とともに路上観察学会を結成し、街の中にあるヘンテコ物件「超芸術トマソン」という概念を作り出したことでも知られています。
ワイヤーで吊られた不思議建築「空飛ぶ泥舟」
もうこの建築物自体がトマソン物件ですよね。空飛ぶ泥舟は2010年に作られました。ワイヤーで吊り下げられていて、遠くから見るとその名の通り空中を飛行しているように見えます。こちらもファンタジーの世界の建物のようです。ぱっと見いったいどこから入るかが分からない不思議建築。
中に入れるのはイベント時のみ
これらは2010年〜2011年にかけてはJR茅野駅前の広場で展示されていて、予約制で中に入ることができたそうです。また2013年のトリエンナーレに展示された時も見学できたんだとか。今でも時折内覧のイベントも開催されるそうですが、私が訪れた時は外から見るだけでしたね。
お尻から這うようにして中に入るみたい
この茶室のイメージは最初はクジラだったそうですが、落っこちないように設計しなおした結果こんなコロンとした丸い形になりました。目を凝らすとお尻のところに穴が空いています。おそらくここから這うようにして入るんでしょうね。誰かが入る度、風が吹く度にゆらゆら揺れそう。
はしごを使って入る高さ6mの高過庵
そしてこちらは「最も危険な建築トップ10」にランクインした高過庵。2004年の建築。高さは地上6m。はしごをかけて登る形式の茶室です。茶室に入っている間にはしごを外されたら降りることはできませんね。中には最大8人が入ることができるとか。意外に広いですね。
なんと底から入る「にじり上り口」
入り口はどこにあるのかというと、なんと建物の底にあるんです。茶室の小さな出入り口のことを「にじり口」と言いますが、高過庵のにじり口は「にじり上り口」と命名されています。なるほど、はしごからよじ登るように這って入るからなんですね。
こちらのはしごを使って中に入ります
高過庵から少し離れた木陰にはしごが置いてありましたよ。イベントの時にはこれを使って茶室に入るんですね。この茶室は藤森氏の自分用の茶室として建築されました。個人の茶室を持っているだけですごいですが、こんなトマソン物件を所有しているなんてさらにすごい!
2本の木が支える樹上の茶室
木の上にあるのでジブリ作品に出てくるファンタジックな風景となっていますね。茶室を支えているのは高さ6m50cmの栗の木だそうです。一抱えもある太さの2本の大木ががっしりと茶室を掴んでいるような形になっています。
根本はコンクリートで補強してありました
木が腐って茶室ごと崩壊してしまわないか──と心配でしたがよく見ると木の根元はコンクリートで補強してありました。これなら安心。
ワークショップで一般市民が建築作業に参加
藤森氏の設計の特徴は、一般市民が建築作業に加わっていることです。これも茅野市美術館がワークショップを催して、興味を持った市民が作業に参加しました。みんなで共同作業をして一つの大きな建築物を作るってロマンがあるなあ。私もいつかこんなワークショップに参加してみたいです。
半地下にある茶室・低過庵(ひくすぎあん)
そして高過庵のすぐ近くにあるのが低過庵(ひくすぎあん)です。高過庵建築の13年後の2017年に建築されました。これは縄文人の竪穴式住居をイメージして立てられたものです。名前の通り地面にめり込むような形になっているんですよ。
屋根はスライド式で開くようになっています
銅板ぶきの屋根は横方向にスライドして開くことができるんです。中には地面の下にある形の小さな部屋があります。これも茶室で、天からの光を浴びながらお茶を楽しむことができるんですね。屋根を閉じると薄暗く、建物に包まれたような落ち着きを感じるんだそうです。
理想の建物を作って過ごすなんて最高の贅沢!
自分が想像した理想の建物を建ててそこで過ごすなんて、最高の贅沢ですよね。建築家ってなんて夢のある職業でしょうか。おとぎ話の中に出てくるような愛らしい建築物ばかりでした。藤森氏の最新作は公民館です。これも見てみたいですね!(2019年05月25日訪問)【麻理】
追記:藤森氏の最新建築・高部公民館完成!
藤森照信が設計した高部公民館が2021年5月に完成しました。
藤森照信さん設計の高部公民館完成
茅野市高部区出身の東大名誉教授で建築家の藤森照信さん=東京都=が設計した高部公民館が完成し、10日、建設業者から同区に引き渡された。木造平屋の建物で、柱の一部は屋根を抜いて丸太を立て、かつてあった火の見やぐらをしのばせたほか、外壁は本格的な焼き杉の板張りにした。竣工式は6月6日午前10時から開かれる。
これまでの木造2階建て公民館が建設以来70年以上経過し老朽化したことから取り壊し、跡地と買収した隣接地合せて625平方メートルの敷地を確保。昨年7月に着工し床面積約260平方メートルの新公民館を建てた。
(2021年5月11日 6時00分 長野日報)
神長官守矢資料館行ったついでに竣工式を終えた高部公民館へ。
守矢資料館に負けず劣らずの藤森照信建築の特徴を最大限に発揮したと言っても良い公民館でした!
エアコンの室外機やガス給湯器も外壁の焼杉にマッチした真っ黒な徹底ぶり。 pic.twitter.com/Xyir4rPgBw— ぉざゎ (@zawatch) June 13, 2021
参考文献
地図&情報
高過庵(たかすぎあん)・低過庵(ひくすぎあん)・空飛ぶ泥舟(そらとぶどろぶね)
住所 :長野県茅野市宮川389-1
休業日:見学自由
駐車場:無料