即身仏。自らの命と引換えに人々の苦しみを救うために、命絶えるまで苦行を続けた末にミイラ仏となることです。新潟県村上市の観音寺には、日本で最後に即身仏となった佛海上人のミイラが安置されています。
即身仏が4体祀られている新潟県
新潟県は山形県に次いで即身仏が多いことで知られています。山形が8体、新潟が4体。あとは茨木、福島、長野、岐阜、京都が1体ずつで合計17体が発見されています。このブログでも岐阜県の両界山横蔵寺、福島県の貫秀寺を訪れて即身仏をレポートしています。
日本で一番新しい即身仏を祀るお寺・観音寺
新潟県は17体のうち、最古の即身仏と最新の即身仏が祀られている興味深い土地です。今回は日本最後の即身仏が祀られている大悲山 観音寺に足を運びました。観音寺では即身仏となった佛海上人(ふっかいしょうにん)を直接拝むことができるのです。
明治36年に即身仏となった佛海上人
一番新しい即身仏と言っても、佛海上人は江戸時代末期1828年の生まれです。即身仏となったのは1880(明治36)年。そしてミイラ仏として発掘されたのは1961(昭和36)年です。以後地元の方からは親しみを込めて「佛海さん」「ぶっけさん」と呼ばれています。
佛海上人はここ新潟県村上市に生まれました
佛海上人は新潟県村上市安良町の近藤家に生まれました。18歳で仏門に入ってからは山形のお寺で数々の修行に打ち込み、1873(明治6)年に観音寺の住職となりました。即身仏となったのは1903(明治36)年3月20日。76歳のときでした。
明治政府の新しい法律によって発掘が叶わず
本来なら佛海上人の遺言通り、3年後に発掘されるはずだったのですが、明治政府が新しい刑法「墳墓発掘禁止令」「死体損壊禁止令」を施行したことで佛海上人を土から掘り出すことができなくなりました。
そして80年の時が流れ、1961(昭和36)年に日本ミイラ研究グループにより発掘され、無事即身仏となって観音寺に戻られたのです。
現在即身仏になるのは事実上不可能
明治時代を最後に即身仏となる人がいなくなったのは、世のため人のために命を投げうつ僧侶がいなくなった──というわけではありません。即身仏になるには他の僧侶に自らを埋めてもらったり発掘してもらわねばならず、それが現代の法律では自殺幇助罪、死体損壊罪、死体遺棄罪に触れるため、事実上不可能になっているんですね。
残念ながら生前に土に埋められるのは叶わず
これは即身仏になる作法に従って作られた佛海上人の木棺です。ただし実は佛海上人は生きながら土中に埋められたわけではありません。上人がこもるための穴を掘っている時に、警察官がやってきて法律に触れると言って止められてしまったのです。
お寺で息を引き取った後に土中へ
おそらく佛海上人は五穀断ちなど即身仏になるための準備をしていたはずですが、法律の壁に阻まれて結局お寺の中で息を引き取ったそうです。土中の穴にご遺体が移されたのは死後のことなんですね。
ちなみに五穀断ちを行う理由ですが、脂肪があると腐敗しやすくなるのでうまくミイラ仏になれないからだそうです。また防腐作用のある漆(うるし)や腸内細菌を殺すためにヒ素を飲んだという説もあります。
昭和の時代になってやっと掘り出される
法律によって3年後に掘り出されることも叶わず、ずっと地中で待ち続けていた佛海上人。昭和の時代にやっと観音寺に戻ってこれてホッとしたでしょうね。それは地元の方々も同じ思いでしょう。日本ミイラ研究グループの松本昭先生のご著書『日本・中国ミイラ信仰の研究』にとても印象的なエピソードがあります。
『日本・中国ミイラ信仰の研究』のエピソード
昭和36年当時82歳の斎藤キヨさんという方が「上人の遺体を湯灌(ゆかん)した水を皆で飲んだ」と話されているんです。佛海上人は土中でなくお寺で亡くなったので、お通夜にたくさんの人が集まったのでしょうね。湯灌の水をみんなが飲むほど地元の方々の信仰を集めていたんだなあと驚きました。
佛海上人入定のための穴
観音寺裏手には佛海上人の入定のための穴があり、拝観することができます。佛海上人はこの深い穴の中で命尽きるまで祈り続けるはずだったんですね。こんな土の中に自ら埋められることを望むなんて本当にすさまじい信仰の力です。言葉を失ってしまいます。
うつむき加減で祈っているような佛海上人の姿
ミイラとなった佛海上人はうつむき加減で座禅を組んでいらっしゃいました。しっかりと組み合わせた手には数珠を握られていて、お経を唱えているようにも見えました。私も手を合わせてこの世の平和をお祈りしました。写真撮影は禁止なので、ぜひご自分の目で拝観してくださいね。(2019年05月04日訪問)【麻理】
追記
日本最古の即身仏、新潟県長岡市 西生寺の弘智上人(こうちしょうにん)についてレポートを書きました。こちらも合わせてご覧ください。
参考文献
地図&情報
観音寺(かんのんじ)・即身仏の佛海上人(ふっかいしょうにん)
住所 :新潟県村上市肴町15-28
電話 :0254-52-4707
時間 :08:00~17:00(冬季は16:30まで)
拝観料:200円
関連URL:仏海さまの観音寺 – 大悲山観音寺