浄国寺の谷汲観音像に続いて、天才人形師・松本喜三郎の作品が見られる熊本市の来迎院へとやってきました。聖観世音菩薩像は喜三郎が明治20年に寄進した世にも美しい菩薩像です。
熊本駅すぐ近くの歴史あるお寺
来迎院(らいこういん)は熊本駅からすぐの万日山中腹にあるお寺です。創建は大宝年中の701〜703年とされていてもともとは奥の院もある巨大な寺院だったと言い伝えられています。平安後期にいったん衰退したものの、寛喜2年(1230)に浄土宗の寺として再興しました。歴史あるお寺なんですね。
数少ない現存する松本喜三郎の作品の一つ
浄国寺の谷汲観音像を拝観した後に、こちらの来迎院にもうかがいました。というのもここには松本喜三郎の手による聖観世音菩薩像があるからなのです。
喜三郎作品はほとんどが消失しています。残っているものも個人蔵だったり国内外の美術館蔵だったりでほとんど見ることができません。来迎印と浄国寺で喜三郎の作品を2体も拝観できるなんて本当にありがたいです。
来迎院の御本尊は阿弥陀如来像
写真左がご本尊の阿弥陀如来像。熊本市史編纂のための調査で、鎌倉時代の作であることが分かりました。こちらも鈍い黄金色で霊験あらたかな雰囲気ですが、どうしても隣の聖観世音菩薩像の方にひきつけられますね。
ガラス張りの木製厨子に安置された聖観世音菩薩像
菩薩像は3面がガラス張りの木製厨子の中に安置されています。色鮮やかな衣装を身に着けた美しい像です。遠くからでもハッとするような魅力がありますね。ガラスの反射で上手く撮影できず申しわけありません。
高さは130cmほどでかなり小柄の菩薩様
近づいてみてわかったのですが、聖観世音菩薩像は谷汲観音像にくらべてかなり小さい印象です。お聞きしてみると高さは130cmほどだそうです。谷汲観音像はモデルと等身大の160cmですから、かなり小柄の菩薩様ですね。
生き人形というよりは仏像と言う方がふさわしい
谷汲観音像は胡粉でつやつやとした、まるで生きている人間のような肌質でしたが、聖観世音菩薩像は木そのままのざらざらとしたテクスチャです。そして顔のパーツの比率を見ても、人間の顔というよりは日本画の仏画の顔です。これはあくまで仏像として見たほうが良い作品ですね。
来迎印に観世音菩薩が寄進されたいきさつ
来迎院の公式サイトにその経緯が書いてありました。明治11年に松本喜三郎が東京を引き払って熊本に帰ってきた時のこと。谷汲観音は菩提寺である浄国寺に寄進されましたが、来迎院のご住職も前々から谷汲観音を懇望していたもののそれが叶いませんでした。そこでその代替としてこの菩薩像が作られたそうです。
最初から仏像として作られた松本喜三郎作品
谷汲観音と雰囲気が随分違うのも、この像は最初から仏像として寄進するために作られたもので、見世物としての人形ではなかったからなんですね。しかしながら喜三郎自らが縫ったと言われる衣装を着せたというのですから、かなり力を入れて作った作品であることは間違いありません。
不思議な魅力のある美しい菩薩像
ふと振り向いた一瞬を切り取ったような造形は、仏像と生き人形の中間の不思議な雰囲気を醸しています。スレンダーなスタイルとアルカイックスマイルも魅力的です。この人間を超越したような独特の雰囲気は、喜三郎が人体模型を作るために1年間東校(今の東大医学部)で数多くの死体や解剖を見学したことに由来しているのかもしれませんね。
本堂の壁に残る熊本地震の爪痕
そして浄国寺と同じく来迎院の本堂の壁にも熊本地震の爪痕が残っています。ひび割れた壁が痛々しいです。でも御本尊の阿弥陀如来像も聖観世音菩薩像も無事であったことにホッとしました。(2017年05月07日訪問)【麻理】
参考文献
地図&情報
来迎院(らいこういん)
住所 :熊本市西区春日6-8-8
電話 :096-355-5917
関連URL:大宝山 来迎院 | 熊本県熊本市春日にある浄土宗の寺院