熊本県和水町には、トンカラリンと呼ばれる全く用途不明の人工トンネルがあります。排水路か、朝鮮式山城か、はたまた卑弥呼の宗教施設か──? トンカラリン内部に潜入してみました。
トンカラリンの名前の由来は?
トンカラリン──名前からして不思議ですね。これは小石を穴に投げた時の音であるとも、古代朝鮮語の「トンカラリ(鬼のこもる穴)」「天帝」を意味する言葉であるとも言われています。しかしながら伝承が全く残っておらず、いつ、誰が、何のために作ったものかも全く分かっていません。
464メートルのトンネルは全く用途不明
トンカラリンは全長約464メートルのトンネルです。一部自然の地形を利用していますが、切石を組んだ壁や天井、階段から明らかに人口のものであると判明しています。しかし用途は不明。入り口の音声案内によると、トンカラリン内部に入ることができるとのことで潜入してみました。
「トンカラリン」は、江田船山古墳から続く台地の東側にある謎のトンネル遺構です。先端は鶯原台地に祀られた鶯原神社から少し下がった場所にあり、ここから暗渠や地隙と呼ばれる地割れなどが連なって、 通称「タンタン落とし」の石組み暗渠まで続いています。 全長は445.1m。いつ、誰が、何のためにつくったのか、手がかりとなる資料も地元の言い伝えもなく、未だに解明されていません。天井石をのせた地割れ、石段、這って進むしかない暗渠など、トンネル の構造や大きさの違いは実際に通って、見学することができます。 動きやすく汚れていい服装と軍手、懐中電灯を持参して、探検家気分を楽しみながら謎解きに挑戦してください。
一番入りやすい第三トンネルから内部へ
464メートルのトンカラリンはあちこちに出入り口がありますが、一番入りやすいのは第三トンネルです。ここには人が通ることを想定していると思われる階段があるからです。穴に降り立ってみると、私の背よりも少し高いぐらいの天井。周りは苔むしていて、内部はひんやりとしています。
高さ50センチ、幅50センチほどの通路が続く
汚れても良い服装、軍手、マグライトで完全装備。いざ探検へ出発! 7段の石段を登ると高さ50センチ幅50センチほどの石組みの通路が奥へ伸びています。壁はじっとりと湿っていて、地面もドロだらけです。
【動画】動画で見るトンカラリン内部の様子
途中まで動画を撮影しましたので御覧ください。通路は非常に狭いため、マグライトを持ちつつ撮影しながら四つん這いで進むことが困難だったため、早々に撮影はあきらめました。しまった、ヘッドライトにすべきだった。
疑問視される「排水路」説
このトンカラリン、いったい何なのでしょうか? 熊本県教育委員会は「排水路」説を唱えましたが、1993年の6月にこのあたりを集中豪雨が襲った時、内部に水がほとんど浸入しなかったこともあり疑問視されています。
渡来人の宗教施設?
石組みの構造から5、6世紀の古墳時代のものではとされており、朝鮮式山城の技法との類似もあるため、「渡来人の宗教施設」という見方もあります。面白い説では、推理小説作家の松本清張氏の説。邪馬台国の卑弥呼が地下の鬼を呼ぶための鬼の通り道として作ったという「鬼道説」です。そうすると時代はさらにさかのぼりますね。
地方豪族・日置氏が建設したものか?
またこの地方に住んでいた日置(へき)氏が建設した宗教施設ではないかと考える学者もいます。日置氏は熊本県玉名郡の地方豪族・郡領(郡司)でした。これだけの規模のトンネルを建設するには莫大な富を持っていなければ不可能ですから十分考えられますね。でもいったい何のために大金を使ってトンネルを作ったのかしら?
排水路としてはほとんど機能していない
トンカラリン内部は一直線ではなくあちこちが湾曲しており、途中水の流れをせき止めるような階段状の石組みもあります。これは排水口としては効率的な作りではありません。またこのあたりは台地面積が狭く雨水量が少ないこともあり、わざわざ排水路を作る意味もありません。
2001年の調査で第2トンネルを発見
2001年にトンカラリンの再調査が行われ、第二トンネルが見つかりました(※写真矢印は第二トンネル入口ではありません)。そして第三、第四のトンネルがまだ埋もれている可能性も出てきました。とすると実際のトンカラリンは464メートルどころか、もっと広大な巨大地下通路であるかもしれません。
トンカラリン最終地点の菅原神社
地上に出てトンカラリンの出口をたどりながら、どこまで続いているのか歩いてみました。すると最終地点には菅原神社がありました。明らかにトンカラリンよりも後に作られたものですが、何か関係があるのかしら? ここが宗教的に神聖な場所だったから建てられたのかもしれませんね。
生命の誕生を感じさせるトンカラリン体験
真っ暗な中を這って進みそしてまぶしいほどの光に戻ってくると、まるで生まれ変わったように感じました。灯りも何もないトンネルを進んだ古代の人々もやはり同じように感じたことでしょう。熊本のオブサン古墳が足を広げた妊婦の形であるという説もある通り、暗闇と光を、生命の誕生や生まれ変わることに結びつけていたのではないでしょうか。
近くの古墳で女性シャーマンの頭蓋骨を発掘
1994年に近くの松坂古墳や前原長溝古墳から、変形した頭蓋骨が発見されました。古代の女性シャーマンのものであると考えられており、トンカラリンとの関係も指摘されました。変形は人為的に加工されたもので、古代の人々は普通の人間とは違う異形の女性を神に近い者として崇めていたのではないでしょうか。
あなたもトンカラリンの謎に挑戦してみませんか?
古代の女性シャーマンは、トンカラリンに入って神秘体験から神の宣託を授かり人々に伝えていたのかもしれません。トンカラリンを探検したことは、私にとっても非常に貴重で不思議な体験でした。不思議な人口トンネル・トンカラリン、あなたも謎に挑戦してみませんか?(2017年05月07日、2013年10月10日訪問)【麻理】
参考文献
地図&情報
トンカラリン
住所 :熊本県玉名郡和水町瀬川
時間 :見学自由だが夜はお勧めできない
入場料:無料
駐車場:無料