沖縄県与那国島の海底に沈む与那国海底遺跡と呼ばれる不思議な構造物。人間が作った遺跡? それとも単なる自然の造形物? 長年の夢だった与那国島の海に潜り考察しました。
欠航のため海底遺跡を見られず
20年以上前に学研『ムー』の特集で与那国海底遺跡を知って以来、ずっと行きたいと思っていました。なのに与那国島まで渡りながら、直接潜って海底遺跡を見ることはできなかったのです。海底遺跡は島の南にあります。南風が強い日は(※)ダイビング船はもちろんのこと、グラスボート、漁船など全て欠航。よってこの記事の写真は北西のダンノ浜で潜ったものです。最初に謝っておきます。ごめんなさい。
海底遺跡の発見!?
1986年に地元ダイバーによって、島の南側の海底で不思議な地形が発見されました。階段状の壁や、柱、人が切り出したかのような直線的な岩──。以来琉球大学教授(現在は名誉教授)である木村政昭氏を中心とした調査が行われ、木村教授はこの地形が人によって作られた遺跡であると主張してきました。
古代の遺跡が水没したものか
木村教授は人が通れる城門、穴の開けられた二枚岩、メインテラスやプール、階段などは侵食では作られないと考え、これらのものは人工物であると述べています。また数千年前の古代の文明がこのあたりに存在していて、海面上昇によって水没したものであると論じてきました。
私は遺跡ではないと思う
しかし私は与那国の海底遺跡は遺跡ではないと考えています(※)。つまり自然に作られたものだろうと考えているのです。私は珍スポット旅行でよく山にのぼるのですが、似たような階段状の岩や、すっぱりと断ち切られた石積みに見える地形を日本全国あちこちで見かけるからです。
階段状の地形は珍しくない
たとえばこれは、和歌山県和歌山市加太(かだ)の深山(みやま)要塞の近くにある地形です。横倒しになっていますが、階段のように見えますね。これと同じような形状の岩が与那国海底遺跡に見られます。これは地質学で言う「節理(せつり)」という現象で作られたものです。
遺跡的な形状は節理によるもの
節理とは岩盤が地層面に添って剥離することです。岩が直線的に割れる節理は地質学的にとりたてて珍しいものではありません。与那国島のこの海域は流れが早いため、剥がれ落ちた岩はすぐに流されてしまいます。だからまるで人が作ったかのような美しい遺跡に見えるのです。またもし遺跡が海に沈んで数百年から数千年が経過したのなら、波による侵食を受けて岩の断面はむしろ直線的でなくなっているはずです。
島全体の地層がが傾いている
それから与那国島自体の岩盤が斜めに傾斜していることも自然物である根拠に挙げられます。これは船から撮影した与那国島の西の端です。崖をよく見ると斜めに傾いた地層が見えると思います。海底遺跡も同じように東南方向に傾斜しているのです。その傾斜角度は15度もあります。
人工物にしては不自然な15度の傾斜
スキーをしたことがある方なら分かると思いますが、15度の坂というと中級者が滑るような角度です。遺跡ならばこのような傾斜をわざわざ作る理由は何でしょうか? もし遺跡が水平だったり、島全体の地層と逆向きに傾いているなら人工物であるかもしれませんが、島と同じように傾いているなら自然のものだと考えるべきでしょう。
ホンモノの遺跡であってほしい
けれどもその一方で、これが本物の遺跡であればなあとも思うのです。与那国海底遺跡を目当てに訪れる観光客が落としていくお金は結構なものです。与那国海底遺跡は小さな与那国島の大きな収入資源となっているのです。でもこれが全くの自然物でありふれた地形だと知れ渡ってしまえば、与那国島を訪れる観光客は大幅に減ってしまうかもしれません。
なんてロマンにあふれた場所だろう!
海底に沈んだ古代文明──なんてロマンにあふれた場所でしょう。私は「自然の造形だってことは百も承知。でもダイビングには面白い地形だし、楽しいよね、遺跡だって想像するだけでドキドキするし」というスタンスでいたいのです。いつかまた私は与那国島に行きます。そして今度こそ自分の目で海底遺跡を見ます。どうか私に「これはホンモノの古代の遺跡だ!」と信じさせてくれ!
読者の方にお願いしたいこと
ついでに言うと、当ブログの古代ロマンシリーズはそういう立ち位置で読んでほしいと期待して書いています。読者の方に「すごい、日本にはキリストの墓があるんだ! これは日本政府がバチカンに伝えるべきことだ!」と思ってほしいのではありません。「あ~『竹内文書』ね~(半笑い)」って言ってほしいのです。
でも最近前者の人が増えてきて、時々そんなメールを頂いたりしちゃうもんだから正直困っています。『ムー』の洗礼は中高生までにすませてほしい。そして大人になったら『ムー』を読みつつ渾身の演技で「な、なんだってー!!!(MMR的に)」とやるのが正しい大人の楽しみ方の作法ではないかと思うのです。(2012年05月14日訪問)【麻理】
追記
与那国海底遺跡については「2ちゃんねる考古学板 与那国「遺跡」スレ過去ログ置き場(※リンク切れ)」のページをぜひ読んでいただきたい。2ちゃんねるの書き込みだけれど、ここに登場するhammerhead氏の素晴らしい考察にうならされる。ところで、hammerhead氏は私の知り合いじゃないかなと思うのだけど……。連絡のしようがないよね。
参考文献
地図&情報
与那国海底遺跡(よなぐにかいていいせき)
住所 :沖縄県八重山郡与那国町与那国