陰翳礼讃・闇に浮かぶ血みどろの残酷屏風絵「絵金蔵」【高知】

絵金蔵
高知県香南市の絵金蔵。明るいお天道様の日差しや、蛍光灯の光には全くそぐわない、世にも妖しい世界をご覧に入れましょう。ここほどほの暗い蝋燭の灯りが似合う場所はありません。

ほの暗い蝋燭の灯りが似合う場所

絵金蔵
そもそも最近明るすぎです。街中でも家の中でもギラギラ、チカチカ、夜中でもまばゆく光り輝く国。それが現代ニッポン。新宿歌舞伎町みたい な不夜城が一ヶ所ぐらいあってもいいですよ。でも日本全国照明過剰すぎる。

普段から日本の照明について怒りを覚えている私。ぜひここでほの暗いろうそくの明かりの良さを体験していただきたい。

異端の天才画家・絵金

絵金蔵
絵金(えきん)──絵師・広瀬金蔵は幕末に活躍した異端の画家です。髪結いの子として生まれましたが画才に恵まれ、土佐藩家老御用達の狩野派絵師に抜擢されました。

しかし狩野探幽の贋作事件に巻き込まれ、城下を追われてしまいます。以後彼はここ赤岡町に移り住んで絵を描き続けました。赤岡町では代々、百数十年以上も絵金の絵を守り続けてきました。絵金蔵(えきんぐら)では絵金の屏風絵を23枚保存しているんですよ。

血の匂いが立ちこめる、極彩色の狂気

絵金蔵
絵金の絵を表現するならこんな言葉でしょう。狂乱、残虐、血まみれ、絢爛、卑猥、怪奇、闇、情念、業──血の匂いが立ちこめる、極彩色の狂気。絵金のエロティシズムとサディズムは見る人の心に戦慄を走らせます。けれども同時にがっしり心を捕らえて離さない、強烈な魅力を備えた絵なのです。

内部は写真撮影禁止でしたので、以下の写真はフォトショップ合成で再現したものです。

館内ではかすかな光を頼りに鑑賞

絵金蔵
絵金蔵では「絵金の屏風絵は、闇の中にあってこそ、圧倒的な存在感と異彩を放つ」として、展示室を暗くしてあります。私たちは入り口で渡される、ろうそく型の灯りを頼りに暗い中屏風絵を眺めるのです。

日本の美は陰翳の中

絵金蔵
谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』にも書かれているように、元来、日本の美は陰翳の中にこそ宿るのものなのです。掛け軸や屏風絵、浮世絵などは障子からの淡い光やろうそくの炎で見るものであり、とげとげしい蛍光灯の光にさらされるべきではありません。これが分かっていない美術館が多すぎます。

谷崎翁、もっと言ってやれ

絵金蔵
昭和8年当時でも谷崎潤一郎は「今の日本は明るすぎる」と憤っていますが、24時間コンビニの蛍光灯がまぶしい現代日本を見たらなんと言うでしょうね? その点、絵金蔵は安心して訪れることができます。絵金の屏風絵をベストな状態で見られるのですから。

歌舞伎や義太夫の血なまぐさい場面

絵金蔵
我が子の生首を前に歯を食いしばる松王丸、バラバラの死体が転がる鈴ヶ森に立つ美少年・白井権八、血まみれの鉄山の首を抱くお菊、のどに短刀を突き立て血をしたたらせている乳母・お辻──歌舞伎や義太夫の、血なまぐさい場面が極彩色で表現されています。

日本古来の闇の世界を覗く

絵金蔵
高度経済成長後から今日まで日本はひたすら街から闇を排除し、光満ちる夜に変えてきました。死を隠し、血を拭き取り、清潔で明るい日本を目指してきました。でもその反動で人々は禁忌に触れたい気持ちを抑えられなくなるのかもしれません。絵金蔵では近代日本が押し殺してきた、日本古来の闇の世界を覗き込むことができます。

7月の宵宮・絵金祭がお勧め

絵金蔵
外に出ると太陽をまぶしく感じます。今まで見ていたのが夢のようにも思えるでしょう。もっと長く絵金の世界に浸っていたいというあなたには、7月に行われる宵宮・絵金祭をお勧めしますよ。

赤岡町の屏風絵が、須留田八幡宮の宵宮と絵金祭りの宵にだけ蔵の中から目覚め、商店街の軒先に並ぶのです。薄暗がりの道を血まみれの屏風絵を見ながらそぞろ歩く。想像するだけでもゾクゾクしてきませんか?

7月の宵宮・絵金祭がお勧め

絵金蔵
ガレージや自動販売機など町のあちこちに絵金の絵がありました。この絵金蔵も地元の住民ボランティアによって運営されています。絵金は地元の方に愛されている絵師なんだなあと思いました。(2009年05月04日訪問)【麻理】

参考文献

地図&情報

絵金蔵(えきんぐら)

住所 :高知県香南市赤岡町538
電話 :0887-57-7117
休館日:月曜・年末年始
時間 :09:00~17:00(入館16:30まで)
入館料:大人520円
駐車場:無料2台
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