徳島県板野郡板野町にある地蔵寺。四国八十八ヶ所霊場の五番札所です。見どころは等身大の五百羅漢が並んだ回廊。ポール・デルヴォーの『人魚の村』のようなゾクゾクする体験です。
奥の院にある四国でただ一カ所の場所
地蔵寺(じぞうじ)自体は四国八十八ヶ所霊場・五番札所ということもあってメジャーなお寺なのですが、地蔵寺の北西に位置する奥の院・五百羅漢堂(ごひゃくらかんどう)が私の目的。本堂から200メートルほど離れた場所です。地蔵寺の境内のあちこちにも「四国でただ一カ所」と書かれた五百羅漢堂の看板が立てられています。
ひっそりとしている五百羅漢堂
本堂裏手にある石段を登って行くと五百羅漢堂にたどり着きます。本堂の方はお遍路さんや観光客もたくさんいたのですが、羅漢堂は少し距離があるので訪れる人も少なくひっそりとしています。拝観券200円を購入して入ってみましょう。
お堂は大正時代に消失
この羅漢堂はコの字型をしています。写真では上の写真が建物中央。下の写真がそれぞれ建物の左右になっています。五百羅漢堂は18世紀に実名、実聞という兄弟の僧が諸国を行脚した際に得た浄財で作ったと言われています。しかし当時のお堂は大正四年の火災で消失してしまい、現在の建物は再建されたものです。
回廊にたたずむ羅漢さん
羅漢堂は回廊状になっていて木製の五百羅漢像が安置されています。薄暗い回廊に等身大の羅漢さんがたたずんでいて荘厳な雰囲気です。地蔵寺のある地名は羅漢といい、地蔵寺は地元の人には「羅漢さん」と呼ばれて親しまれているのですが、この五百羅漢堂があるからなんですね。
等身大で迫力がある
私は「似た形のものが無数に整然と並んでいる」光景が大好きで、五百羅漢のあるお寺にはよく足を運んでいます。極彩色に彩色されたものも多いので見応えがあるのですが、こちらは等身大で大きいため他の五百羅漢に比べてかなり迫力があります。
ついつい歩く足が速まる
人がぜんぜんいないのと、堂内がろうそくの明かりぐらいしかなくて薄暗いことで、少々背筋が冷えるような思いがしました。たとえ木像の羅漢さんといえども、人の形のしたものにぐるりと囲まれているとドキドキしてきますね。つい回廊を歩く足が速まってしまいます。
羅漢さんってどんな人?
こちらは釈迦如来。外からの光があって明るくほっとする空間です。ところで五百羅漢についてもう一度復習してみましょう。羅漢とは阿羅漢(あらかん)の略で、煩悩を脱した尊敬されるべき修行者のこと。五百羅漢とはブッダに常に付き添った500人のお弟子さんです。
亡くなった人の面影
いろんなお顔をした羅漢像に、一般の信者さんは自分の亡くなった身内の面影を重ねたりします。500人もいるのだから、亡くなった人に似た羅漢さんは一人ぐらいはいるだろうということですね。釈迦崇拝だけでなく、先祖の供養としてお参りする方も多いみたい。
庶民の信仰では先祖供養
小乗仏教においては阿羅漢は仏弟子の到達する最高の階位として、厳しい修行の末に到達する究極の仏弟子でしたが、庶民信仰では先祖供養と結びついているというのが興味深いですね。私も亡くなった父に似ていいる羅漢さんはいないかなと探してみましたよ。
不気味? 羅睺羅尊者
羅漢さんの中で有名な人と言えば羅睺羅(ラゴラまたはラーフラ)尊者でしょう。お腹を開いて、心のなかの仏の姿を見せるというインパクトのあるポーズで知られています。彼はブッダの実子なのですが、美しかった父親に似ていないのでブッダの子供ではない──なんて噂も囁かれていました(この像でもあんまりイケメンじゃないよね)。
お腹の中は仏……じゃない?
そこで羅睺羅は「顔は美しくなくとも、私の心には仏がいらっしゃるのだ」と胸をがばっと開けて見せたそうです。まあきっと親の七光りを妬む人もいたんでしょうね。でもお腹の中はお参りした人のお賽銭がどっさり。これじゃあ「私の心はお金でいっぱいだ!」と叫んでるみたい。羅睺羅尊者もトホホと苦笑いしているようにも見えました。
大師堂には大きな弘法大師像
最後は大師堂です。へりおすさんのレポートによるとここは大正時代の火災でも焼け残った部分ということです。大きな弘法大師像の周りに小さな回廊があって、四国八十八ヶ所の本尊が安置されています。羅漢さんはいらっしゃらないのでここだけ雰囲気が少し違っています。
デルヴォーの『人魚の村』的怖さ
等身大で極彩色に塗られた羅漢像はとても迫力がありました。観光客がほとんどいないこともあり、暗い回廊を一人でお参りするのはちょっと勇気がいるかもしれません。思い出したのは、ポール・デルヴォーの『人魚の村』という絵画。地蔵寺の五百羅漢堂を歩くのは、全く動かない女性たちの前を歩いて行くのと同じ感じがするなあ。(2009年05月06日訪問)【麻理】
追記
ポール・デルヴォーの『人魚の村(The Village of the Mermaids)』 はこれです。子供の頃この絵が怖くて怖くて仕方なかった。どのへんが人魚なのだろうか、この絵の女の人は生きているんだろうか、どうしてみんなジッとして動かないんだろう……。膝が触れ合うような近さでしか歩けない狭い道を進む勇気は、私には、ない。
参考文献
地図&情報
地蔵寺(じぞうじ)五百羅漢(ごひゃくらかん)
住所 :徳島県板野郡板野町羅漢林東5
住所 :088-672-4111
時間 :羅漢堂は07:30~16:30
休業日:年中無休
拝観料:大人200円
駐車場:無料(80台)