妊婦の腹を裂いて殺した鬼婆の悲劇「観世寺・黒塚」【福島】

観世寺・黒塚
福島県二本松市安達ヶ原(あだちがはら)。地名にピンときたあなたは民俗学や日本の伝説にお詳しいと見た。世にも恐ろしい猟奇殺人事件が起こった地、観世寺と黒塚を訪ねました。

安達ヶ原の鬼ってマジ?

観世寺・黒塚
安達ヶ原の伝説は「みちのくの 安達が原の黒塚に 鬼こもれりと 聞くはまことか」という平兼盛(たいらのかねもり)の和歌で知られています。平兼盛は三十六歌仙の一人で、10世紀中頃の人。

この時代の人が「東北の安達ヶ原に鬼がいたってマジで?」と言っているぐらいだから、鬼婆事件が起こったのはそれよりもずっと前のことなんですね。

鬼婆の使った出刃包丁や人肉を煮た鍋

観世寺・黒塚
ここは観世寺(かんぜじ)。鬼婆が住んでいたいと伝えられる岩屋や鬼婆の石像、鬼婆の使った出刃包丁や人肉を煮た鍋、生き肝を入れたツボ……など様々な鬼婆ゆかりのものが見られる、鬼婆フリークの聖地です。境内をまわりながら鬼婆の言い伝えについてお話しましょう。

鬼婆伝説とは?

観世寺・黒塚
昔、京都の公家の屋敷で病気の姫に仕える乳母(うば)がいました。姫の病気を治すには妊婦の生き肝を飲ませるしかないという易者の言葉を信じ、乳母は生き肝を探す旅に出ます。そして十数年が経ち、乳母は安達が原に行き着いて巨石の岩屋に住み始めました。

とうとう妊婦を見つけて殺害

観世寺・黒塚
妊婦が通りかかるのを今か今かと待ち続けた乳母。そしてとうとう旅の妊婦が夫とともに岩屋のそばを通りかかりました。乳母は夫のすきを見て妊婦を殺し、腹を裂いて生き肝を取り出しました。

その妊婦こそ実の娘だった

観世寺・黒塚
けれども乳母は妊婦が持っていたお守りを見て愕然とします。それは旅に出る前に、幼かった我が娘に渡したお守り。乳母が殺してしまったのは実の娘だったのです。乳母は気が狂ってしまい、人を喰う鬼となってしまったのです。

境内にある出刃洗いの池

観世寺・黒塚
その後鬼婆は熊野の祐慶(ゆうけい)という旅の僧によって退治されてしまいます。死に顔からは狂気の相は消え、安らかな微笑みをたたえていたといいます。観世寺には鬼婆が旅人を殺した時に出刃包丁を洗ったという出刃洗いの池(または血の池)があるんですよ。

鬼婆が暮らしていた笠石

観世寺・黒塚
こちらは鬼婆が暮らしていたという岩屋の笠石(かさいし)。張り出した岩が笠のような屋根になっています。ここで旅人が来るのを虎視眈々と狙っていたのかもしれません。私としては岩が落っこちてくるんじゃないかと、そっちの方が怖かったけど。(東北地震でもびくともしなかったから大丈夫です!)

手塚治虫『ライオンブックス』の「安達ヶ原」

観世寺・黒塚
鬼婆伝説は歌舞伎や能、浄瑠璃の「黒塚」として広まりましたが、現代でも映画やドラマ、コミックに影響を与えています。私が最初に興味を持ったのは、手塚治虫の『安達ヶ原』(『ライオンブックス』)というSF短編でした。

主人公のユーケイ(安達ケ原の鬼を退治した僧侶と同じ名前ですね)という青年が大統領の勅命を受けて、ある星で宇宙船を襲っている老婆の魔女を始末しに行きます。

醜い魔女の老婆はなぜかユーケイをもてなしますが、地下室で人骨を発見したユーケイは老婆を殺そうとします。ユーケイの身の上話を懇願する老婆。しかしその老婆こそ、かつてのユーケイの恋人・アンニでした。

コールドスリープによって宇宙を旅していたユーケイは若いまま、けれどもユーケイの帰りを待ち続けていたアンニは老婆になってしまっていたのでした。

宝物資料館には鬼婆ゆかりの品々

観世寺・黒塚
観世寺の宝物資料館では、鬼婆ゆかりの品々の展示が見られます。残念ながら写真撮影は禁止だったのですが、この岩屋から出土したと言われる包丁や鍋などオドロオドロしいグッズがずらり。生々しい鬼婆の殺戮絵巻には背筋がゾッとしますよ。

60年に1度しか見られない秘仏

観世寺・黒塚
ご住職のお話によると、観世寺は旅の僧・祐慶が建てたもので、鬼婆退治に使った如意輪観音像を埋め込んだ如意輪観世音菩薩像がお堂に祀られているそうです。でも60年に一度しか開帳されないものだそうで。直近でご開帳されたのは1982年。次に見られるのは2042年です。

観世寺の他の見どころ

観世寺・黒塚
観世寺の境内にある岩屋にはあっちこっちに立て札が立っています。蛇石(へびいし)は、参詣人の安全を守ってくれる白蛇が住んでいた石、夜泣き石は鬼婆に殺された赤ちゃんの泣き声が夜に聞こえるという石、祈り石は鬼婆が足止めの呪いをかけて祈った石、安堵石は悩み事を聞いてくれるという石。

胎内くぐりはスリムな人向け

観世寺・黒塚
胎内くぐりは、人がかろうじてくぐり抜けられる隙間のある、巨岩が組み合わさったスポット。スリムさに自信のあるチャレンジャーはやってみるべし。

猫いっぱいの境内

観世寺・黒塚
あと鬼婆伝説とは関係ないのですが、境内にはやたらめったら猫がいます。ご住職にお聞きしたら、いつのまにか野良猫が住みついたり、捨てられた猫が集まって増えてしまったとのこと。猫捨てたらダメ! ゼッタイ!

黒塚も見てみよう

観世寺・黒塚
観世寺から歩いて3分ぐらいの阿武隈川の右岸には、黒塚があります。ここには退治された鬼婆の亡骸が埋められていると言われています。河原に1本だけ杉の大木がそびえていて、その根本に黒塚の石碑があります。

スルーされてるお姫様はいったい……?

観世寺・黒塚
最後にちょっと気になったのが病気のお姫様。元はといえば彼女に生き肝を飲ませるために乳母が鬼と化したのですが、いったいお姫様はどうなったのかな? 結局病気も治らなかったのなら、乳母も姫も娘も娘の夫も殺された旅人も(祐慶以外は)この伝説の登場人物はみんな不幸だね……。(2013年11月28日訪問)【麻理】

引用

著作権法のマンガ引用に基づく条件は以下のとおりです。
『ライオンブックス』手塚治虫 講談社漫画文庫
TEZUKA PRODUCTION 2014
『安達が原』 31ページ、32ページ、60ページ、61ページ

参考文献

地図&情報

観世寺(かんぜじ)

住所 :福島県二本松市安達ヶ原4-126
電話 :0243-22-0797
時間 :09:00~16:30
拝観料:大人400円
駐車場:無料(20台)
関連URL:安達ヶ原(観世寺) – 二本松市ウェブサイト

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