雪は天から送られた手紙──なんてロマンチックで素敵なんでしょう。中谷宇吉郎博士の言葉です。1936年には世界で初めて人工雪の製作に成功した、雪の結晶研究の第一人者です。
雪の結晶をイメージした建物
石川県加賀市には、中谷宇吉郎(なかや うきちろう:1900〜1962)博士の業績や雪について学ぶことができる雪の科学館があります。科学館は白山をバックにした六角形の塔3つからなる建物。六角形は雪の結晶をイメージしています。これまで訪れたミュージアムの中でも特に美しい建築物です。
オシャレ系カフェのような雰囲気の館内
館内はまるでおしゃれ系カフェのようなスタイリッシュな雰囲気です。いわゆる珍スポットではないのですが、中谷宇吉郎先生の業績をぜひ多くの方々に知っていただきたいと思いご紹介することにしました。(以下敬称略)
寺田寅彦と中谷宇吉郎の関係
物理学者で随筆家──とくれば頭に浮かぶのは、国語の教科書によく載っている寺田寅彦(てらだとらひこ:1878〜1935)かもしれませんね。実は中谷宇吉郎は東京帝国大学理学部物理学科で寺田寅彦に教えを受け、卒業後も寺田研究室の助手として働いています。中谷宇吉郎のエッセイの中にはよく寺田寅彦が登場するんですよ。
一つとして同じもののない雪の結晶
雪の結晶は全く同じ形のものはないと言われています。雪国へ行くと「こんなにたくさんの雪が降っているのに、本当に一つも同じ結晶がないんだろうか」と不思議に思います。レース細工のような美しい結晶が溶けてしまうと、もうこれと同じものは二度と見られません。寂しいような切ないような気持ちになります。
グリーンランドから運ばれた石
こちらは中庭。中谷宇吉郎は毎年グリーンランドに行き氷冠(ひょうかん:氷帽とも言う。陸地を覆う氷河の塊)の研究を重ねていたのですが、ガンのために研究半ばにして亡くなってしまいました。中庭は中谷宇吉郎の最後の研究の地・グリーンランドから運ばれた60トンの石が敷き詰められています。永久凍土地帯を再現しているそうですよ。
人工霧の立ちこめる中庭
たちこめているのは人工の霧です。訪れたのは真夏でしたが、ゴツゴツした石の上を漂う霧がとても涼しげでした。風のない静かな日には人工霧が白く庭を埋め尽くしして幻想的な風景に。風の強い日には、ブリザードのように舞い上がって厳しい北の国の風景になります。
中谷宇吉郎の面白がる才能
中谷博士の素晴らしいところは、科学だけでなく様々な方面に興味を持つ、「面白がる天才」だったことです。絵を描いたり、文章を書いたり、ダンスや音楽にも才能があったと言います。不思議なこと、美しいものが大好きで、とことんまで突き詰めて行動する人だったのでしょうね。はるばるグリーンランドまで研究におもむいていたのも頷けます。
恩師・寺田寅彦の言葉
恩師である寺田寅彦の口癖として、中谷宇吉郎が紹介している言葉があります。それは「ねぇ君、不思議とは思いませんか」。中谷宇吉郎はこの言葉に感銘を受けて、科学に生涯をささげました。
センス・オブ・ワンダーの持ち主
私はSF用語のセンス・オブ・ワンダーを「ワクワクする心、面白がる気持ち」と勝手に訳しているのですが、中谷宇吉郎は素晴らしいセンス・オブ・ワンダーの持ち主だったのでしょう。
あなたの心に素敵なワンダーを
雪の科学館はもちろん雪について学ぶことができるのですが、できれば中谷宇吉郎の人物像により注目してほしい。きっとあなたの心にも、中谷宇吉郎と同じように寺田寅彦の声が響いてくるはずです。ねぇ君、不思議とは思いませんか?(2006年07月22日訪問)【麻理】
参考文献
地図&情報
中谷宇吉郎 雪の科学館(なかやうきちろう ゆきのかがくかん)
住所 :石川県加賀市潮津町イ106
電話 :0761-75-3323
時間 :09:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日:水曜、年末年始
入館料:大人500円
駐車場:無料
関連URL:雪は天から送られた手紙 中谷宇吉郎 雪の科学館トップページ