♪金襴緞子の帯締めながら、花嫁御寮はなぜ泣くのだろう──艶やかに咲き誇る彼岸花はどうしてこんなに花嫁行列に似合うのでしょう? 愛知県半田市で行われた彼岸花の花嫁行列です。
様々な異名を持つ彼岸花
曼珠沙華(まんじゅしゃげ、まんじゅしゃか)、地獄花、天蓋花、幽霊花、狐花、狐の松明、狐のかんざし、捨て子花、三昧花、したまがり、はっかけばばあ、剃刀花──これはみんな彼岸花の別名です。他にも花と葉が同時に出ないことから、葉見ず花見ず、と呼ばれることもあります。
この世のものではない花・曼珠沙華
普通花は秋に枯れてしまいますよね。でも彼岸花は秋に芽を出してぐんぐん伸びてこの派手な花を咲かせます。そして1週間ほどでしぼんでしまうと、球根から葉が伸びてきて青々とした葉を茂らせたまま冬をこします。この不思議な性質から、この世のものとは思えない花、天上に咲いている花、曼珠沙華と言われるのです。
川の堤防に咲く200万本彼岸花
愛知県半田市の矢勝川では、平成2年から堤防に彼岸花の球根を植える「ヒガンバナ百万本計画」が地元住民のボランティアによって行われてきました。毎年9月下旬には川沿い2キロにわたって200万本の彼岸花が咲き乱れる、絶景ポイントとなっています。
今年はやや開花が遅れました
ただし今年は夏の暑さのせいか普段よりも開花が遅れてしまっており、訪れた日の彼岸花は7分咲きといったところ。実際はこの写真にあるように、一面彼岸花で真っ赤というかなり珍しい光景が見られるようです。
矢勝川と彼岸花の関係
ここで「どうして彼岸花?」という疑問が湧いてくるかと思うのですが、そのカギは童話作家・新美南吉(にいみなんきち)です。結核により29歳の若さで亡くなりましたが、『ごん狐』『手袋を買いに』『おじいさんのランプ』などで広く知られていますね。
新美南吉の童話『ごん狐』
『ごん狐』はあなたも子供の頃絵本で読んだことがあるのではないでしょうか。ごんは悪さをしたお詫びに栗や松茸など山の幸を兵十に届けますが、兵十はまた悪戯しに来たと勘違いしてごんを撃ち殺してしまいます。ラストシーンの「ごん、おまえだったのか」という兵十の言葉に胸が詰まります。
彼岸花咲く丘の葬列
『ごん狐』は南吉の故郷、半田市を舞台にしています。ごん狐が兵十のうなぎを悪戯で逃してしまうのが矢勝川、そして彼岸花咲く中兵十の母親の葬列が進んでゆく場面もあります。私もごんが彼岸花の間から葬列を眺めている絵が強く印象に残っていますよ。
当日結婚する本物の花嫁・花婿
半田市では彼岸花の開花と結婚式を組み合わせた「彼岸花の花嫁行列」というイベントを行なっています。花嫁さん、花婿さんは役者さんではなくて、実際にこの日に岩滑八幡社(やなべはちまんしゃ)でご結婚されるご夫婦。本物の花嫁行列が見られるというので、当日はかなりの人出です。
赤い傘をさした一行が歩いてくる
14時30分から結婚式が行われ、15時30分から矢勝川の花嫁行列がスタートします。アマチュアカメラマンのおじさまたちから「来たぞ!」という声が上がりました。赤い傘をさした一行がゆっくりとこちらに向かって来ました。
まるで映画の一シーンのよう
人力車に乗った花嫁さんと隣を歩く花婿さんがやってきました。彼岸花の咲く堤を静かに通りすぎていきます。彼岸花の華やかな赤と純白の着物の花嫁さんのコントラストが美しい。袴姿の花婿さんも晴れがましい笑顔です。映画の一シーンを見ているような幻想的な光景。
美しい日本の風景
こういう伝統的なお式を見ると本当に日本人でよかった、日本の風景は素晴らしいと感動します。花嫁さんの目も喜びでキラキラしているようでした。
来年ご結婚予定のカップルにおすすめ
たくさんの観光客の方にも祝福されますし、素晴らしい体験になると思います。これからお式をあげるカップルの方、ぜひ来年の花嫁行列に申し込んでみてはいかがでしょうか。
ただし天候・運次第
ただしこの日は夕方から雨が降り出して、翌日台風17号が来てしまいました。そして最初に書いたように、気候によって彼岸花の開花状況が違ってきますので、晴天の下満開の彼岸花の中を歩けるかどうかは、天候次第運次第です。一生に一度のことだからぜひ神様なんとかしてあげてください。
行列の最後にいる黄色い着ぐるみは?
最後にオチを。文金高島田にモーニング、振袖というビシッと決まった礼装の人々に続いて、一人だけ浮きまくりの黄色い着ぐるみ。ご、ごん、おまえだったのか……。(2012年09月28日訪問)【麻理】
参考文献
地図&情報
彼岸花の花嫁行列(ひがんばなのはなよめぎょうれつ)
住所 :愛知県半田市 矢勝川周辺
電話 :0569-32-3264(半田市観光協会)
日にち:毎年9月下旬(公式サイトで確認)
入場料:無料