岩壁にあいた横穴はまるでコロボックルの住居のよう。千葉県富津市の岩谷観音堂は内部にずらりと仏像が数十体彫り込まれている洞窟。神秘的な空気にしばし時間を忘れそうになります。
大悲山岩谷堂清巌寺の洞窟群
岩谷観音堂の正式名称は、大悲山岩谷堂清巌寺(だいひざんいわやどうせいがんじ)といいます。洞窟群は第1窟から第14窟まであり、阿弥陀如来像、仁王像などたくさんの仏像が刻まれています。一巡りすると全国の霊場を巡礼したのと同じ御利益があるとか。
行基が一夜で彫り上げた洞窟!?
伝説によると奈良時代の高僧・行基が一夜にしてこれらの洞窟と磨崖仏を彫り上げたというのですがいくらなんでもそれは無理でしょう。もともとは横穴式の古墳群で、鎌倉時代のやぐらも含まれているとのこと。上総国札三十三番の結願所であり、天羽作札三十四番霊場でもある、由緒正しい歴史的な場所であることは間違いありません。

ツタやシダに覆われた神秘的な洞窟
雰囲気的には埼玉県の吉見百穴を思わせる洞窟群です。でもあちらは観光化されていて賑やかなのに対し、岩谷観音堂は私の他だれもおらずひっそりとしています。ツタやシダに覆われた洞窟はとても神秘的で、妖精やコロボックルがひょいと出現しそうな雰囲気ですよ。

地元の方々のボランティアによる改修・整備
ここは以前は草が生い茂って中に入りにくい状態だったようですが、2011年に地元の方々による奉仕活動で外壁、内装、洞窟群周辺の整備が行われました。しかし改修が行われたと言っても静かな雰囲気は損なわれていませんのでご安心を。階段や天井の低い回廊を歩くことになりますので、スニーカーなど歩きやすい靴がお勧めです。
摩耗している仏像群
ザラザラとした砂岩の壁面にたくさんの磨崖仏が彫り込まれています。外からの光がうっすらと差し込んで磨崖仏に陰影を与えています。顔や手は摩耗してしまっていてはっきりとはしていませんが、それでも崩れ落ちること無くきれいな状態に保たれていますよ。
秘境を一人探検しているかのような雰囲気
他に誰もおらず周りも山なので鳥の声ぐらいしか聞こえません。磨崖仏に見つめられながら回廊を歩いていると、時間が止まってしまったかのような不思議な錯覚に陥ります。まるで秘境を一人探検しているかのような気持ちです。
コの字型の回廊を歩く
洞窟はコの字型になっていてすぐに反対側に出られます。それほど長い回廊ではありませんが外の明るい光を見るとホッとしますね。手すりがあるものの階段など足場が悪いところもありますのでちょっとした冒険気分に浸れます。
磨崖仏を刻む気持ちとは?
手前の像はおそらく仁王像。これらの磨崖仏を彫ったのが行基であるにしても別の人であるにしても、壁に向かって一心不乱に仏を刻むというのはどんな気持ちなんでしょうか。強い意志の力で作られた仏像は、現代人の私の胸にも迫るものがあります。
広間のテーブルセットで休憩
お堂を挟んで反対側の洞窟の一つ。天井は低いものの広々とした空間があります。ここにも壁に磨崖仏が彫り込まれていますが、なぜかテーブルとチェアセットが置かれていました。地元の方が休憩できるようにと寄付されたのでしょうか。
17世紀から続く信仰の場所
岩谷観音堂は17世紀後半の江戸時代中頃から信仰されてきたようです。たくさんの人々がここに足を運んだことでしょう。緑いっぱいの癒やし空間に、心もリフレッシュしたような気持ちになりました。
もったいない……でもひっそりした場所であってほしい
こんなに素敵な場所が全く観光化されておらずガイドブックにもほとんど乗っていないことがもったいないと思うと同時に、いつまでもこのままひっそりとした場所であってほしいとも思います。こっそりとあなたにだけお教えしますのでどうぞ足を運んでみてくださいね。(2016年10月09日訪問)【麻理】
参考文献
地図&情報
岩谷観音堂(いわやかんのんどう)やぐら群
住所 :千葉県富津市数馬
電話 :0439-80-1291(建設経済部商工観光課)
時間 :見学自由
入場料:無料
駐車場:無料