泣ける昔話と与那国島のシンボル「立神岩(たちがみいわ・トゥンガン)」【与那国島】

立神岩
沖縄県与那国島の南東の海ににょっきり立ち上がる立神岩。島のシンボルにもなっています。地元の言葉でトゥンガンと呼ばれる立神岩にまつわる、悲しく不思議な伝説をご紹介します。

乱暴者と優しい若者

立神岩
その昔、与那国島には二人のとても仲の良い若者がいました。一人はがっしりとした体つきの乱暴者、もう一人は美しい顔立ちをした華奢で心優しい若者。島の娘たちの目当てはもちろん優しい若者。優しい若者が歩けば、いつも娘たちがたくさん寄ってきました。

二人はいつも一緒

立神岩
しかしそんな時は優しい若者は娘たちに丁寧にわびて、一人ぼっちになっている乱暴者のところへ行くのです。そして二人で寝転がりながらクユ(与那国島の言葉で「月」)を眺めて、肩を並べて家に帰るのでした。

断崖絶壁の卵取り

立神岩
与那国島の南は断崖絶壁になっています。その絶壁には冬になると海鳥が巣作りをするのです。村人たちはこの時期に海鳥の卵取りをするのが楽しみになっていました。

ある日のこと乱暴者が優しい若者の家を訪ねて、一緒にトゥンガン(立神岩)に登って、平久保大鳥(ワシに似ている大きな海鳥)の卵を取ってこようと誘いました。

乱暴者はトゥンガンをどんどん登っていく

立神岩
優しい若者は危ないからやめろと諫めますが、乱暴者は言うことを聞きません。結局二人してトゥンガンへ向かうことにしました。崖の下から海へ50歩のところにトゥンガンは直立しています。見上げると天をつくような高さです。怖気づく優しい若者を尻目に、乱暴者はどんどん上へ登って行きました。

卵はたくさん取れたけど……

立神岩
ためらっていた優しい若者も、岩にしがみつくようにして登って行きました。そしてとうとう頂上にたどり着きました。二人は手を取り合って喜びました。平久保大鳥の卵をたくさん集めてさあ帰ろうとした時、足元の岩が崩れてうっかりアングインナ(縄)を落っことしてしまいました。

大丈夫だ、きっと助けにくるから待っていろ

立神岩
乱暴者は心配するなと優しい優しい若者に言って、岩を降り始めました。しかしあろうことか途中で手を滑らせてしまいます。乱暴者は「大丈夫だ、きっと助けにくるから待っていろ」と叫びながら、真っ逆さまに落ちていきました。優しい若者は岩の頂上で泣き叫びながら、昔の事を思い出しました。

優しい若者の本当の友だちは乱暴者

立神岩
ひ弱だった優しい若者はいつも他の子供にいじめられていました。そんな時はいつも乱暴者が助けてくれたのです。大人になると乱暴者は村人に嫌われ、自分は娘たちにモテるようになりました。でも子供の頃から優しい若者のことを気にかけてくれた本当の友だちは、実は乱暴者だけだったのです。

夢の中空を飛ぶ平久保大鳥

立神岩
泣きつかれて眠ってしまった優しい若者は夢を見ました。夢の中で大きな平久保大鳥が優しい若者の頭上を飛んでいました。平久保大鳥は「待ってろ、今助けてやるからな」と叫びました。その鳥の目はどこかで見たことがあるような目をしていました。

そして優しい若者が目を覚ますと、そこはトゥンガンの頂上ではなく地面の上だったのです。

こういう話にめっぽう弱い

立神岩
以上『与那国島異聞』(※)という書籍に書かれていた昔話のあらすじです。このお話をうっかり帰りの飛行機の中で読んでしまって、涙が出るのをこらえるのに苦労しました。もしあなたが腐女子ならなおさら、体の大きな乱暴者と華奢なイケメン二人の純愛物語にグッと来るかもしれません。

『与那国島異聞』(ikemaroo1著)は自費出版らしく、与那国島でしか売ってない。与那国島の言葉も分かる貴重な資料だし、お話もとても面白い。民俗学に興味がある方はぜひ入手のこと。空港の書籍コーナで売ってる。

平久保大鳥ってどの鳥のこと?

立神岩
ところで平久保大鳥って実際はどの鳥のことなんでしょうね? 石垣島の風景と歴史(周遊の旅・東回り編)(※リンク切れ)というサイトによると、アホウドリ(※)ではという説もあるそうです。平久保大鳥は九尺(約2.7メートル)の翼があるそうですが、アホウドリの翼も2.4メートルありますもんね。立神岩に飛来していたなんてロマンがあるなあ。(2012年05月13日訪問)【麻理】

アホウドリは人間が近づいても逃げないので簡単に捕まえることができる。だからアホの鳥で、アホウドリ。これは名前がひどすぎる。だが巨大なアホウドリが空を飛んでいる姿は実に優雅で美しいのだ。

東邦大学の長谷川博教授はこの美しい鳥の呼び方を山口県の呼び名の「オキノタユウ」と呼ぶべきであると提案している。これイイね! 英語はアルバトロス(albatrus/albatross)でかっこいいのになあ。

参考文献

地図&情報

立神岩(たちがみいわ・トゥンガン)

住所 :沖縄県八重山郡与那国町字与那国
電話 :0980-87-2402(与那国町観光協会)
時間 :見学自由
入場料:無料
駐車場:無料、トイレあり

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